陽のあたる場所へ

 ⑪ 初夏の嵐



大学の課題レポートの提出を終えた日、俺は解放された気分でベッドに寝転がり、音楽を聞きながら雑誌を眺めていた。

ステレオから聴こえる大音量の中、ドアをノックする音に気づき、俺はドアを開けた。

「絢音さん…。あれ?兄貴、まだなんですか?」

「うん…。卓也さん、急な仕事が入ったから、今日は戻って来られそうにないんだって」


兄は二年ほど前から、次期支社長として他県にある支社の方に異動していたので、なかなか戻って来ることも、頻繁に絢音さんと会うことも、ままならなくなっていたようだ。

週末であるこの日、やっとこちらに兄が帰って来られるらしいと言って、絢音さんが家を訪れたのが一時間前…。

仕事が早く片付けばその足で帰るつもりだったが、帰れなくなる可能性の方が高いので、会うのはまた後日にして欲しいと、兄から電話があったという話だ。

「仕方ないから、もう帰ろうと思ってたら、この音聴こえて来て‥。私、このバンド好きなのよね」

「え~?そうなんすか?そんなにメジャーじゃないから、友達に話しても、いつも〝誰だよ、それ〟って言われてたんですけど」

「そうそう!私もよ!何か嬉しいな~!
卓也さん、あんまりこういうの聴かないし。
これ、新しいアルバムよね?」

「一昨日、発売のですよ。
え~俺も嬉しいな。良かったら聴いて行きます?」

「ホント~?いいの~?嬉しい!じゃ、お邪魔しまーす」

絢音さんは、眩しいくらいの笑顔を浮かべながら、軽い足取りで俺の部屋に入って来た。
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