陽のあたる場所へ


龍司は、唇を噛み締めると、暫く俯いていたが、また顔を上げ、話し始めた。


「今日の午後、葬儀を終えてから、何年か振りに家に戻ってみた。
母は、家族が誰も居なくなった、だだっ広い家で、末期癌の診断を受けて入院するまでの間、たった一人で暮らしていたんだ。
リビングのテーブルの上に、俺と兄のそれぞれに宛てて手紙が置いてあった。
自分の死期がわかっていたから、遺書のつもりだったんだな…


そこに書いてあったんだ…父が俺の実の父親だと名乗らなかった理由が。

二人は、父が兄の母と結婚する前は、恋人同士だったんだ。
父に、将来の会社の経営に有利な縁談が持ち上がり、母は自分では父の役に立てないと思い、他に好きな人ができてその人と結婚すると嘘をつき、身を引いたらしい。
でも、父が結婚して、兄が生まれて何年後かに、偶然再会した時、母の嘘がわかり、二人はお互いの気持ちを再確認して、またヨリを戻してしまった。



そして、俺が生まれた。


以前、恋人同士だったとは言え、道に外れた関係だ。

それを知った兄の母は、ノイローゼ気味になり、家を飛び出し、そして亡くなった。

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