陽のあたる場所へ


何故、今、過去の恋愛なんか思い出しているのだろう…

昔を懐かしむということは、きっと現在に満足していない証拠なのだろう。

あの頃はまだ良かった、とか、
あの頃こうしていれば、現在はもっと幸せになっていたかも知れない、とか…。

そんな気持ちの裏返しなのだろう。





そんな別れを経てでも、それなりに成長して、次はいい恋をしていれば、無駄ではなかったと思えるけれど…

本当に、我ながら何をやっているんだろう…と思う。


今までの恋愛が、順風満帆でなかったとは言っても、龍司とのことは、沙織の人生において最悪だ。


誰にも言えない。
こんな誰にも言えない恋をしているなんて、大馬鹿者だ。





自分を嘲笑うことしかできなくて、あまりにも惨めで、
夜の中で眩しく煌めいているイルミネーションが、だんだん涙で滲んで見えて来た。


溢れ出した涙は温かくて、惨めでも何でも、生きているんだと実感させられる。

なのに、温かい涙が伝った頬は、すぐに冬の風に晒されて冷たくなって行く。


沙織は、幸せが溢れているかのような雑踏の中を、片手で顔を隠しながら、俯いて歩き続けた。

< 54 / 237 >

この作品をシェア

pagetop