陽のあたる場所へ
あの日、結局、光里の誘いを断って、忙しいのを口実にそのまま1ヶ月ほど経ってしまった。
それでも、ずっと心配してくれている光里と、やはりゆっくり話がしたくて、休日に電話をしてみた。
「カフェとかじゃ込み入った話できないもんね…家においでよ」
そう言ってくれたので、今日は一人なんだと思っていた。
しかし、ケーキの箱を抱えた沙織を、玄関で迎えたのは、光里の夫だった。
「あっ、タカ!‥あっ、いや、ごめんなさい」
後ろで光里が笑っている。
「いいよ。光里だって、ずっとその呼び方なんだから。さ、沙織さん、入って」
光里と夫の大村貴(オオムラ タカシ)は、大学の先輩後輩の間柄。
8年ほど付き合って、2年前に結婚した。
沙織と光里は同期入社で、わりと早い段階で仲良くなったので、貴のことも紹介して貰って、一緒に食事したり、結婚式にも招待して貰った。
光里にベタ惚れの貴は、ひたすら優しい。
勿論、愛されているということもあるが、やはり元から性格が穏やかなのだろう。
「結婚するなら、ああいうタイプよ。優しくて尻に敷けそうなタイプが一番」
光里もそんなふうに言いながら、しっかり愛しているのが伝わって来る。