アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜
 すでに遠くなった昔語りをするように政臣は語る。

「言い訳だ、そんなの」

「そうだ。
 だから、撃てと言っている」

 変わらないと思ったが、昔より骨ばった、だが、相変わらず大きな熱い手で、銃を持つ遥人の手をつかむ。

 そのまま、政臣の指が引き金にかかった遥人の指の上に乗った。

 すぐにも引きそうになる。

 遥人は小さく声を上げ、思わず、銃を離し、投げ出していた。

 よく磨かれた床を銃が転がる。

 荒い遥人の息遣いだけが、広いホールに響いていた。

 沈黙のあと、ひとつの声がした。

「気がすみましたか?」

 聞き覚えのある声だ。

 ずっと自分を寝かしつけてくれていた声。

 此処へ来てから、誰かの手の上で、からめとられ、動かされている気がしていた。

 誰か。

 いや、それが誰なのか。

 もう自分にはわかっていた気がする。

「……那智」

 那智が隅に寄せられた白い厚みのあるカーテンの陰から現れたところだった。

 政臣が那智を見る。

 那智は政臣に頭を下げ、言った。

「公安の桜田の娘です」

「ああ、君が――」
と言ったあとで、老いてなお鋭い眼光で那智を見やる。
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