アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜
「わしが見つけときには、お前の母親にはもう別の男が居たんだ。

 ……寂しかったんだろうな」
とぼそりと言う。

「そっちの娘さんは、遥人が死んでも次を見つけそうにはないが」
と言う政臣に、

「いや、このカピバラはすぐに流される女なんで」
と那智を指差し言うと、

「どういう意味ですかっ。
 専務じゃなかったら、流されてませんっ」
と言い返してきた。

 そんな二人のやりとりを見ていた政臣が唐突に言った。

「なんだったら、二人で、この式場、使ってもいいぞ」

「嫌ですよ、こんな縁起の悪いとこっ」
と二人で声をそろえて言ってしまう。

 那智にとっては、自分が別の女と結婚しようとした場所だし、自分にとっては、父親を撃ち殺そうとした場所だ。

「私、もう帰ります。
 あとはご自由にっ」
と言って那智は身を翻し、行ってしまう。

「桜田くん」
と何処へともなく政臣が呼びかけると、はい、と桜田が姿を現した。

 政臣は、ひとつ溜息をついて、
「今日はありがとう。
 一太(いちた)のことも頼みます……」
と言う。

 そう言う政臣は、ぐっと老け込んで見えた。

 桜田は黙って頭を下げる。

 一太というのは、確か、梨花の兄の名前だった。
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