アラビアンナイトの王子様 〜冷酷上司の千夜一夜物語〜
「最初の日、貴方の部屋で言ってくれたじゃないですか」
と言うと、遥人はすぐにわかったらしく、赤くなって咳払いをする。

 そのままなにも言わないので、
「あっ、あのときはあっさり言ったのにっ」
と言うと、

「あれはなんとも思ってなかったからだっ」
と言ってくる。

「今回、私、結構貴方に振り回されましたよね。

 このあと、どうやって生きていこう。

 貴方みたいに恨みをぶつける相手も居ないし。

 誰と縁側で老後お茶を飲んだらいいんだ、とかろいろ悩んだんですよ」
と言うと、

「長生きする気満々じゃないか」
と呆れられた。

「だからね。
 少しくらいご褒美があってもいいと思うんですよ。

 この動きの遅いカピバラが貴方のために駆け回ったんですから。

 お父さんに下げたくない頭まで下げて」

 遥人は一瞬、目をそらしたあとで、那智の手をつかんだまま、真正面から見つめ直して言った。

「俺にはお前だけだ。
 結婚してくれ」
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