不機嫌な恋なら、先生と
「本当ですか?」
「そこのコンビニ出たところで」
もしかして、編集部に来ようとしていたのかもしれない。すぐそこに行ってみたけど、花愛ちゃんの姿はもうなかった。
まだこの辺にいるかな。
あたりを気にしながら、地下鉄の駅の改札まで走ってみたけど、見つけられなかった。電話はやっぱり繋がらない。
地上出口に繋がる階段を上って、出た。次に行く場所が思い浮かばず、壁に寄り掛かった。
「箱崎さん、足早いけど」と、先生は苦笑いで私の隣りに並ぶ。軽く息が上がっていた。
「だって必死ですから」
「行き当たりばったりなのにね」
「電話が繋がらないからです。もう諦めるしかないのかな」と、腕時計を見た。
きっとまだ近くにはいるはず。そう思いたいのに。
「じゃあ少しだけ、取材していい?」
「え?なんですか、急に?」
ぎょっとして、先生を見た。
「こういうとき、やみくもに走るより、呼吸を整えてから動いたほうが上手くいったりするんだよ」
「まあ確かに先生は息上がってますもんね」
「遠回しに、体力ないじじいって言ってない?」
「……少しだけ」
「失礼な」
そういって横目で睨まれたけどすぐに口角を上げた。
「まあいいよ」と気を取り直したように言うと、唐突に取材を始める。
「じゃあさ箱崎さんは、仕事でいちばんやりがいがあると感じるときってどういうとき?」
「そうですね。自分が関わったことが、形となって見れたときは嬉しいです。なので、校了明けですかね。やりきった感じがいちばんするのはあの瞬間ですし」