不機嫌な恋なら、先生と

「目の保養だったのになー」と呟いた。

どういう人なのか沙弥子さんは教えてくれなかったから、初めて聞く浮ついた一言だった。今の今まで尊敬の念一筋で見ていたのが台無しだ。

「はっ?」

「すごいかっこいいからね。やばいよ」

「かっこいいとは、顔ですか?」

念のため確認する。

「そりゃ顔だけど。あ、でもスタイルいいかな。身長高いし、顔もけっこう小さいしね。あたし、悪いけどイケメンにはうるさいんだからね」と自信満々に言う。

「へえ。先生っておいくつなんですか?」

「あたしの2つ上だから、28だったかな?」

「思ったより若いんですね」

「もっと上だと思ったんだ」

「はい」

「年より少し若く見えるかな。本当にかっこいいからね。顔出したらすごい話題になると思えるくらい。
あっ、小説もいいんだけど、先生のインタビューの記事どーんっと載せてみたかったんだよね。
下手なタレントより色っぽいしさ、ちょっと脱いでもらいたいわ」

と、もはや小説家の概念無視で彼女の趣味にもとれるけど、心底残念そうに呟いた。

実は連載の仕事を依頼する際、顔出しを勧めてみたらしいが、先生はうんと言ってくれなかったらしい。

デビューしたときは、学生で顔を出したくないというのがあったらしいけど、気がつけば覆面作家が売りみたいになってしまったから、今さら公表するつもりはないとのことらしい。
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