不機嫌な恋なら、先生と

先生の家に一泊


年末年始は実家で過ごした。

電車で一時間ちょっとという距離だけど、帰らないと心配されるのは目に見えていたから。おせちやお餅にも飽きた頃、リビングで二時間ドラマをママと見ていると、

「ねえ、この俳優、あの人に似てない?」

と、言った。みそ恋にでていた上司役の俳優だった。

「あの人って?」

「凛翔先生」

ぶっと飲んでいたお茶を噴き出しそうになって、むせた。

「やだ汚い」

「汚いじゃなくて、急にそんなこと言うから」口元をぬぐう。

「そんなに驚く?先生、元気かしらね。まさかこの人じゃないわよね」と、凝視する。

「そこまで似てなくない?」

「そう?こういう顔してたわよ。もう何年会ってないかしら。なつめが高1のときだから」と指折り始める。

「何言ってるの。私、教えてもらったの中学のときでしょ?」

「そうだけど。一回、家に来たじゃない」

「は?」

「凛翔先生、家に来たじゃない」

「来てないけど。何言ってるの?」

しばらく母は考えた顔をして、「あ、なつめはいなかったかも。でも来たって教えたじゃない」と言い直した。

「知らないけど。本当に?」

「うん。高校入学してすぐくらいだったかな。びっくりしたから覚えてるわよ」

「へえ。何か言ってた?」

「んー。近くに来たから寄ったみたいなこと言ってたけどな。覚えてない」

「そっ」

なんで家に来たんだろう。私が、電話に出なかったから?
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