不機嫌な恋なら、先生と

「飛ばしてますよ。先生の作品に携われるのもあと少し。そう思うと、一つ一つの作品に悔いを残したくありませんし、先生の持っている可能性を広げてほしいんです。

それに、去年の年末号でとったGrantのアンケートなんですが、関心のある出来事や人気の映画やドラマに不倫というキーワードがでています。なので、先生さえ良ければ、次回作はぜひ、今までと違う角度から攻めてみませんか?」

「不倫か。箱崎さんは、こうドロドロしたような話を求めているってこと?」

「いいえ。ドロドロした話というよりも、あくまでも、今までのティストで、どこか切なくて温かくなるような描き方で構いません。先生のウケている部分は変える必要はないと思っています。むしろ、従来の不倫という概念をぶっ壊すくらいの書き方をしていただいて構いません」

ぶっ壊すってと、先生は笑った。熱弁するあまり、言葉が荒くなってしまったのがどうやらおかしかったらしい。私は少し恥ずかしくなって口を閉ざした。

「不倫ね。箱崎さんの口から、そういう提案がくるとは思わなかったな」

「お……おかしいですか?」

「いや、色々考えていただき、ありがとうございます」

先生は、わざとらしい丁寧口調で返事をする。意外にも反応は悪くなかったので、その方向でと話を進めていった。
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