不機嫌な恋なら、先生と
KAMAさんが真顔で言うと、酔いが手伝ってか、花愛ちゃんが噴き出して、慌てて口元を手で押さえた。私も一瞬、笑いそうになったけど、怒られるだろうから、一の字に結んでから、言った。
「それは想像したら……複雑ですよね。なんか色んな意味で」
「何よ。その目、ますます気に食わないわね。ないって言いたいんでしょ?
でもね、自分がそうなりたいって思った時点で可能性が生まれるんだから、まわしだけ占めて土俵に上がらない腰抜け女に何も言われたくないし、笑えるのが不思議なくらいよ。恥を知りなさい」
「腰抜けって。KAMAさんは自分に自信があるから、土俵のセンターに立てるんですよ」
「なつめさん、それじゃ相撲取りじゃなくて、ただの尭爾(ぎょうじ)になっちゃいますよ」
冷静に花愛ちゃんが隣で言う。
「自信がなくても、やってる子だっているんじゃないのかしら」と、KAMAさんは、花愛ちゃんに視線を向けた。
それでふとこの前の撮影のことを思い出した。
やる前の苦しみも、その後のすがすがしい顔もすごく覚えている。
撮影を通して伝えてくれた弱いけど、強い彼女はとても素敵だった。自然なありのままの姿を見せてもらったみたいだった。
花愛ちゃんは、ふわりとした笑顔で私を見ると、「怖いことってしてみたらそうでもなかった」と、口にした。
「……え?」
「って、言ってくれたの。なつめさんですよ」
「……」
「頑張ってください」
そう言って、グラスを傾けると、KAMAさんもグラスを傾けるから、乾杯をした。
「今の乾杯はグラスを空けるってことだからね。一気ってことよ」
と、KAMAさんは、涼しい顔で、まだ量の減っていない私のカクテルを見て言う。
「鬼ですね」
「乙女?うふ。分かってるわ」とウィンクされた。