不機嫌な恋なら、先生と

同棲相手は?


「箱崎さん」

編集部のデスクに座っていたら、沙弥子さんに呼ばれてハッと我に返った。仕事中だというのに、時折、先生に抱きしめられたときの腕の感覚や伝わる心臓の音を思い出してしまい、たまに仕事が身に入らなくなっていた。

「リースの返却忘れてない?」

「あっ、すみません。やります。やります。今まさにやろうと思っていました」と立ち上がる。

「何か考え事でもしてたでしょ? あっやしいなー」

的を得たことを言われたけど、はいとは言えなかった。

「いっ、いいえ。次の企画のことを考えてました。恋が実る温泉特集なんてどうかななんて」

「恋が実る温泉? なんかいかにも通らなそうな企画だけど、その詳細だけ気になるわ」

先生と付き合えたのは凄く幸せなことなんだけど、誰にも言えないでいた。

せめて沙弥子さんにだけでも打ち明けようとは思ったものの、そんなこと言ったら、きっと先生は顔出しどころか脱がされてしまう……という最悪の事態まで想像してしまったりする。

隠すつもりはないけれど、もう少し落ち着いてから伝えることにしようと心に決めていた。
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