不機嫌な恋なら、先生と

唇にチョコレート


「チョコレートっていうから、びっくりしましたけど。作るんですか」

バレンタインをテーマに書いてみるということは、わかっていたけど、チョコを作るという発想はなかった。

行った先は大型のショッピングモールだった。その中にある大手のスーパーに立ち寄る。かごを片手に先生の隣を歩く。

「うん。チョコってどう作ってるのか見てみたくなって」

「どういうチョコがいいんですか?」と、訊くと、「なんか柔らかいの」と、曖昧に答える。

「じゃあ生チョコにしましょうか。先生の家ってバットありますか?チョコを流して固めたいので。タッパーとかでも大丈夫だと思いますけど」

「あった気がする」

生クリームとチョコレート、ココアパウダーを手に取っていれると、「これだけで出来るんだ」と、先生はかごを覗いた。

そこは冷静に「ええ」と返した。

「あと買うものありますか?」

「そうだな」と、あたりを見渡す。

「先生って、自炊します?」

「ほぼしないかな。箱崎さんは?」

「時間があるときだけですかね」

「仕事忙しいか」

「そうですね。遅くなることが多くて……」

そう言いつつ、考えた。

先生、私、ご飯を作りに行きますか?いや、でしゃばりすぎだ。また気持ち悪いと距離をとられるに決まっている。

「あれ?」

先生が呟いて立ち止まる。視線を追うと、泣いてる男の子に目が留まった。まだ幼稚園くらいかな。きっと迷子だろう。そう思うと、自然に足が出ていた。

「大丈夫?どうしたの?」

目線をあわせしゃがむと、目をこすりながら私を見た。恐いと思ったのか、顔を隠すように手で覆う。
< 57 / 267 >

この作品をシェア

pagetop