不機嫌な恋なら、先生と

「迷子かな?ママと来たの?大丈夫だよ。お店の人のところに行って、ママたちに会えるようにお話しに行こう?」

人見知りするのかな?と、自分の問いかけに答えてくれない男の子に戸惑ってしまう。もう一度声をかけても同じだった。

先生も私の隣にしゃがむと、男の子に優しく声をかけた。「どうした?」と。

先生の顔を確認すると、少し気が抜けたような顔になって、じっと見つめる。

「迷子?誰と来た?」

頷くと、「パパ」とだけ言った。

「そっか。パパ探しに行かないか?」

少し悩んでコクリと頷いた。そのとき、後ろから、「すみません」と男性の声がした。

「パパ」と叫ぶと、男の子は私達の目の前を走り去っていった。安心したようにパパの足に抱きつく。ほっとした。

男の子のパパは、私たちが話しかけていたところを見ていたのか、「すみませんでした。ご迷惑をおかけして」と会釈をして手を繋ぐ。

男の子にお礼と促すと「……がとごじゃいます」と、小さく言ってパパの後ろに隠れる。去り際に、もう一度お辞儀をした。

「良かったですね。パパとすぐ会えて」

じっと見つめる先生は、私の声に反応しない。

「先生?」

「あ。悪い」

「いいえ。でも先生いてくれて良かったです。私、子供に恐がられるなんてあまりないんですけど、私じゃ話してくれなかったから」

「……いや。箱崎さんが恐がられるとかじゃないと思うよ」

「え?」

「たぶん、女性に慣れてないんじゃないのかな」

「え?」

この休日に、パパと二人きりで買い物。もしかしたら、片親で、ママみたいな歳の女性と触れ合うことがないのかもしれない。そういう想像もできないことはないけど、思いつきもしなかった。

「なんて、想像だけど」と、先生は呟いた。なぜか少し、気落ちして見えた。
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