不機嫌な恋なら、先生と

先生の住まいはマンションだった。

駐車場に車を停めてエントランスから入る。エレベーターは12階で止まった。

買い物袋を抱えて、扉を開けた先生の後ろから着いて行くけど、来てよかったのかなと、そんな思いが一瞬過ぎった。

リビングに入るとカウンターキッチンが見えた。

「でも先生が作らなくてもいいんじゃないですか?」と、横目で見る。

「ん?誰が作るって言った?」

「え?」

「お前だよ」

「はっ?」

「何でもしてくれるんだろ?」

「……はい」と、返事はしたものの、なんの羞恥プレイかと思った。だけど、先生は覚えてないのかもしれない。私が手作りの生チョコを渡したことなんて。

「じゃあ生チョコを作ります。まず初めにですね」

「いや。料理番組じゃないんだから、勝手にやってていいよ」

「……見てるだけですか?」

「うん」と、キッチンカウンターに頬杖をつき微笑む。

「少しは手伝ってくださいね」

そういってみたけど、生チョコの作り方なんて簡単だったりする。チョコを細かく切って、温めた生クリームにいれて溶かし、それを型に流して、あとは冷蔵庫に冷やして待つだけ……待つだけ?

無駄な時間がある。すぐ帰れないじゃないか。長時間の家の滞在は無理がある。

「どうした?」

「いえ。あとは冷蔵庫にいれて固まるのを待って、固まったら食べるサイズに切ってココアパウダーをまぶします。なので、あとは先生おひとりでもできるかと思うので」

「何が悲しくて、ひとりでチョコ作んなきゃいけないんだよ」

「その科白、そっくりそのままお返ししますけど」と、冷蔵庫にチョコレートをいれながら言った。
< 59 / 267 >

この作品をシェア

pagetop