クールな社長の甘く危険な独占愛
ここは、広尾にある映像制作会社。
テレビコマーシャル、ミュージックビデオ、映画などを手がける、業界では大手だ。
長尾さつきは、深くため息をついた。
この会社の役員秘書となって、二年がたった。
二年たっても、社長が怖くて仕方がない。
顔立ちが整い、女優のように美しいのがかえって、彼の恐ろしさを際立たせている。
オーラで周りを萎縮させ、頭の回転の良さでやり込めるのだ。
さつきは黒縁のメガネを取り、デスクにそっと置く。
それからこめかみを指で強く押した。
社長室の隣にあるこの秘書室では、いつも気を張り詰めている。頭痛が起きるのは当たり前だった。
リカが「大丈夫ですか?」と気遣ってくれた。
「大丈夫よ。薬を飲めば良くなるから」
さつきはそう言って笑顔を見せると、引き出しから頭痛薬を取り出す。
それからマグの中のお茶で、ぐいっと飲み干した。
「この緊張感。頭痛にもなりますよね」
リカが首をすくめて言う。
「確かにね」
さつきはメガネをかけ直して、ほっと息をついた。
「最初社長を見たときは、こんなにラッキーな職場はないなって思ったのに」
リカは緩くウェーブしたロングヘアを指で弄びながら、遠い眼をする。
「あんなに顔立ちのいい男性、他にいませんよ」
リカが言った。
「そうよね」
さつきも同意した。
「日公グループの御曹司で、この会社の社長で、なおかつあの顔。この仕事は毎日幸せだろうなって思ったけれど、今はもうやめたくて仕方がありません」
リカは頬をぷーっと膨らませた。