愛は世界を救えるか

「菜々子、何時に来る?」
「11:00の予約だったのでもう間もなくかと…」

羽崎の電波時計が丁度11:00となると玄関をノックする音が聞こえた。怖いくらいピッタリである。

カランカランとドアの鈴を鳴らしながらオフィスに入ってきたのはグレーのスーツを着た物腰やわらかそうな印象を与える笑顔の男だった。
ドアを開けて羽崎を見つけると、より一層口元の笑が深くなり「早かったですかね?」と言いながら少し首をかしげた。


羽崎は営業用のスマイルで「いえ、時間ぴったりですよ」と返す。
「よかった。私、お電話させていただいた富田というものです」
「はい、お伺いしております。どうぞ、そちらにお掛け下さい」

応接間に富田を促し向かい合う形で席に着くと、菜々子が最中の茶菓子と一緒に2人のお茶を置いた。


「早速で申し訳ないのですが、今日は富田さんにこちらの仕事内容を説明した上でご契約をするか決めていただきます」
「ええ」
「それではこちらの書類に必要事項の記入をお願いします」

羽崎が渡した紙には富田が依頼するにあたって必要最低限の個人情報の明記を頼む書類である。
富田は渡された紙にスラスラとペンを進めていった。

書き終えた書類を受け取り、名前や生年月日の欄を簡単に見てから、次に依頼希望動機を確認する。
ここで一番大事なのはこの動機である。
これをできるだけ詳しく知ることで、あらゆる危険を想定しその分、対策案をねることか出来るのと、事件が起きる前に未然に防ぐことも場合によっては可能なのだ。

我々民間SPにくる依頼で多いのが女性のストーカー被害だった。
警察にはまだ事件性が低いとみなされ相手にしてもらえず、仕方なく民間SPに相談に来るという女性が多い。
基本的にそのニーズにあったら人材を派遣するのだが今回は指名という事もあって特に気になるのが羽崎の本音だった。

「御記入ありがとうございます。…そちらの会社の社長の身辺警護ということでよろしいですかね?」
「はい、最近会社の方に脅迫状のようなものが届きましてね…」
「なるほど、警察にはとどけましたか?」
「いえ、事を荒立てたくないので」
「わかりました、ちなみにそちらの脅迫状は送り主に心当たりはあります?」

富田は苦笑いを浮かべながら「うーん」と少しまゆを寄せた。
「うちの社長は昔色々とやんちゃな人でして」
「恨みを買う要素はかなりあると」
「お恥ずかしい話ですが」
「まあ、人間どこで恨みを買うかなんて分からないですからね。今の世の中特にこのあたりでは殺傷事件多いですし、でもほとんどがチンピラやヤクザの起こす事件ですが」

富田はニコリと笑って頷く。

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