二十年目の初恋
雨の日に 4

「毎日、泣きながら彼を待った。でも一ヶ月が経っても帰って来ないどころか電話一本掛かっても来ない。それで私も家を出たの。結婚する時に持って行った家具も電化製品も引っ越し業者に頼んで全てね。マンションの部屋には彼の荷物と離婚届を残して」

「それで ?」

「それから二ヶ月が経って彼が大学に来たわ。離婚届に署名捺印してね。マンションに帰って驚いたみたいよ。だって何もない部屋で私の転居先も分からないようにしてあったから」

「ご主人は何て ?」

「済まなかったって。もう一度遣り直せないかって聞いたわ。でも私は彼の裏切りがどうしても許せなかった。公にはならなかったけど大学でも問題になって。講師と学生が不倫問題を起こした訳だから。彼は地方の大学に飛ばされて……。今はその大学の教授になっているらしいけどね。類は友を呼ぶって言うけど、似てるわよね私たち」

「そんなことがあったんですか。知りませんでした」

「その後、結婚してもいいと思えるような出会いは無かったけどね。このままたぶん生涯一人ね。まあ、さっぱりしてて丁度いいわ。私には」
 そう言って副学長は笑った。

「でも今からでも遅くないですよ。副学長、お綺麗でいらっしゃるし美人副学長で有名ですから。理事長とシンポジウムに出かけた時も会う方が皆さん、おっしゃってました」

「この年齢まで来るとね、余程尊敬出来る方か人生観の一致する人でないと一緒に暮らすなんて無理ね。あなたが今の彼と結婚しようと思えた決め手は何 ?」

「彼は幼なじみなんです。親同士が仲良しで、お互い一人っ子だったので小さい頃は兄妹みたいに育ちました。二十年ぶりに再会するまで知らなかったんですけど初恋の相手だったんです。私にとっても彼にとっても」

「そうだったの。二十年ぶりの再会、素敵ね。初恋の頃の気持ちを思い出したのね。だから、すんなり受け入れられたってことなのね」

「はい。そうだと思います」

 すると障子の向こうから声がかかった。
「失礼致します。お料理をお持ち致しました」
 テーブルの上に並べられたのは色とりどりの季節の食材を使った、見ているだけでも楽しめる食べてしまうのがもったいないような料理。
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