二十年目の初恋
雨の日に 8

 仕事で疲れてるのに、ちゃんと後片付けは手伝ってくれる。

「疲れているんでしょう? 大丈夫よ。私一人で」

 そう言うと

「美味しい晩ご飯、作ってくれてるだろ? 後片付けくらいは当然だよ。それに二人でした方が早く済むだろう?」

 二人で片付けると確かに早いけど……。

「きょうね。副学長に会って来たの。朝、電話を入れたら、きょうの午後なら空いてるって言われて」

「それで?」

「秘書の件、お断りして来たから」

「そうか」

「でもしばらくは新しい大学で就けてくれる秘書だけで頑張ってみるって」

「じゃあ、優華の代わりは決めないってことか?」

「そうなの」

「いつでも来てくれて良いってこと?」

「そう言ってくれた」

「優華、本当に秘書として信頼されているんだな」

「何か申し訳なくて……」

「優華が考えて決めたことなんだから間違ってはいないと思うよ。もしまた仕事をしたくなったら、その時は言って。協力するつもりで居るから」

「うん。ありがとう、悠介」

「これで本当に専業主婦なんだな。俺だけの」

「もし仕事してても私は悠介だけのものだよ」

「もちろんだよ。さぁ、きょうはジットリ雨降りで汗かいたからシャワー行くぞ」

「うん。着替え持って来るから」

 さっぱり汗を流して

「優華、ビール飲む?」

「飲もうかな」

「はい。じゃあ、乾杯しよう」

「えっ? 何に?」

「優華の専業主婦就任を祝って……かな?」

「祝ってくれるの?」

「誰が一番嬉しいと思う? もちろん俺だよ」

 二人で乾杯した。何だか、きょうのビールはいつもより美味しかった。缶ビールを一本飲んだだけなのに……眠い。

「悠介、もう寝よう」
 あと五分もしたら、このままソファーで眠ってしまいそう。

「そうだな」

 悠介も眠いらしく、いつもよりかなり早めにベッドに入った。悠介の腕の中そっと包まれて……。

「優華、もう寝た?」

「うん。もう寝たよ」

「俺、寝てもいい?」
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