二十年目の初恋
雨の日に 9

「どうして聞くの?」

「今朝、あんなこと言ったから」

「何だっけ?」

「忘れてる?」

「ううん。覚えてる。疲れてるんでしょう? 仕事忙しいんでしょう? 疲れてる時は無理しないでちゃんと教えて。それから一人になりたい時も。私、悠介に鬱陶しいって思われたくないから。一緒に暮らしていれば、あることだと思う。言ってくれた方が安心するから。私、ちゃんと悠介に抱かれてるよ。今も……」

「優華……。鬱陶しい訳ないだろう」
 悠介は私の髪にキスして
「やっぱり優華で良かった。おやすみ」

「おやすみなさい」

 そっと寄り添って、お互いの存在に癒されたら……。そんな関係になれるのなら結婚も悪くない。今はそう思える心から。私は悠介の腕の中で安心して眠って悠介は私を抱きしめて熟睡していた。

 激しく愛を確かめ合う。それだけが愛じゃない。穏やかな気持ちで見詰め合って……。自分のこと以上に相手を思い遣れる気持ちが愛なんだと思う。

 いつもより早く眠ったせいか夜中に目が覚めた。悠介は良く眠ってる。寝顔を眺めていたら思い出した。子供の頃の、お昼寝している悠介の寝顔を……。

 なんだか急に可愛く思えて抱きしめてあげたくなった。悠介を起こさないように私を抱きしめている腕を動かして私の枕をベッドの上の方にずらして、そっと胸に抱きしめた。それでも悠介は起きない。

 仕事大変なのかな? すごく疲れているのかな? 私にだって仕事の大変さは分かる。

 考えてみれば男の子は小さい頃から男なんだからとか男のくせにとか、女の子に比べて厳しく育てられたりしている。大人になってもどんなに疲れていても弱音は吐けない。そう思い込んで生きてる。

 男の人だって迷うし悩むし辛いこと、あるんでしょうに……。

 そういう時は疲れた体を心を優しく包んであげたい。甘えて欲しい私の胸に……。悠介を抱きしめながら私はまた眠ってしまった。

 朝、私が目覚めると……。悠介もたった今、起きたところみたいで

「抱きしめられるのも気持ちいい。優華の胸、柔らかいし」
 そう言って笑った。

「疲れ、少しは取れた?」
< 115 / 147 >

この作品をシェア

pagetop