二十年目の初恋
痛み 2
 金曜日まで何事も無く、きちんと仕事を終えて、きょうは土曜日。悠介に料理を作ると約束した日。

「一時には迎えに行けるから」
 と電話があった。

 あさってから六月。衣替え。制服でも着ていない限り、あまり関係ないけれど。

 何を着て行こうか。季節の変わり目には本当に着る物に困る。買い物して料理する訳だから別にスポーティーである必要はない。半袖のやや女らしいカットソーに膝丈のプリントのふんわりスカート、素足にサンダル、薄手のカーディガンとエプロンを忘れずに……。

 一時少し前には外に出て待っていた。一時ちょうどに悠介のシルバーのインプレッサが着いた。車には全く詳しくない私が、この前「これ何て車?」って聞いたらインプレッサだと教えてくれた。目の前に止まった車のドアを開けて乗り込む。

「お待たせ」
 悠介の笑顔。

「待ってないわよ。たった今、下りて来たところ」

「買い物はどこがいいのかな?」
 車を出しながら悠介が聞いた。

「悠介のマンションの近くのスーパーでいいよ。ところで調理器具は揃ってるの? 炊飯器とかお鍋とか……」

「一通りはあると思うけど……」

「ご飯、炊いたりするの?」

「極たまにね……」

 悠介が、お米を洗ってる図が想像出来ない。

「で、今夜、何が食べたい?」

「そうだな……。一番食べたいのは……優華」
 そう言って笑ってる。

「バカ……」

 真面目に聞いて損した。こんな良いお天気の真っ昼間から何て事を……。

 そして悠介のマンションの近くの大型店に着いた。食品売り場のカートを悠介が押して歩く。野菜売り場で

「肉じゃが食べたいな」

「男の人って、そんなに肉じゃが好きなの?」

「究極のおふくろの味だからかな?」

「おばさん作ってくれたの? 肉じゃが」

「うん。作った次の日に煮崩れたトロトロのをご飯に掛けると美味いんだよな」

「じゃあ、おばさんに作って貰いなさい」
 本物のおふくろの味には勝ち目はない。

「でも食べたい」
 と言う悠介に仕方なく肉じゃがの材料をカートに入れた。


< 13 / 147 >

この作品をシェア

pagetop