二十年目の初恋
痛み 12
 何気なく時計を見ると、そろそろ日付けが替わる時間。

 俺も寝るかな。

 ビールの缶を片付けて寝室に行くと優華は、とても穏やかな顔で、ぐっすり眠っていた。

 そっと隣に体を滑り込ませ寝顔を見ていた。

 そういえば小さい頃も優華と並んで昼寝させられて、俺は寝ないで、そっと優華の寝顔を眺めてた。可愛かった。とっても、小さくて……。

 五月生まれの俺は二月生まれの優華より、お兄ちゃんのつもりでいた。二人とも一人っ子だったから妹みたいな気がしていた。

 小さくて可愛かった優華が中学の頃には、とても綺麗になって、先輩からも後輩からも告白されたり手紙を貰ったりしていたのを俺はただ遠くから見ていた。

 俺の優華は、もう俺だけの優華じゃなくなっていった。そう思っていた。

 ずっと俺を好きでいてくれたなんて知らなかった。俺にとって優華は初恋の人。でもまさか優華にとって俺が初恋だったなんて……。

 初恋は結ばれないとよく言われるけれど今度こそ優華をつかまえて二度と離さない。

 別の男と恋をして結婚して傷付いて、また俺のところに戻って来た。

 優華の傷を治すためなら何でもしてやるから。そんなことを考えながら、いつの間にか俺も眠っていた。



 翌朝、目が覚めると俺の目の前に優華の笑顔があった。

「もう起きてたのか?」

「うん。ほんのちょっと前にね」

「よく眠れたか?」

「久しぶりに、しっかり眠った気がする」

「そうか……」

「悠介……」

「ん? なに?」

「悠介の傍に居ると安心していられる。何でだろう?」

「優華……。よし! 朝飯は俺が作るから」

「えっ? 大丈夫?」

「当たり前だ。一人暮らし暦一年になるんだぞ。お前はもうちょっと寝てろ。出来たら呼ぶから」

     *

 悠介は、なんだか張り切ってキッチンに向かった。

 しばらくするとコーヒーの香りとそれから……何だろう? 何かが焼ける美味しそうな匂いがして来た。


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