二十年目の初恋
痛み 13
「優華、朝食出来たぞ」

 そう言われてキッチンに行ってみると、カウンターには厚切りトーストとハムエッグ、カフェオレとヨーグルト。
 おまけに悠介の得意げな笑顔……。

「美味しそう」
 椅子に座ってカフェオレをひと口。トーストの焦げ目もちょうどいい。バターの溶け具合も……。

「あれ、フォーク忘れた」
 って悠介が取りに行く。二人でカウンターに並んで朝食。

「うん、美味しいよ。悠介すごいじゃない」

「そうか」

「作って貰うって気持ち良いよね。なんか幸せ感じる」

「うん。俺も昨夜、感じた。優華に作って貰って」

「でも、結婚して何年も経つと忘れるんだよ。そういう気持ち。作って当たり前。出来てなければ何言われるか……。気に入らないとせっかく作ったものを生ゴミ入れに棄てられる」

「お前、そんなことされたのか?」

「何度もされた。何が気に入らないのか知らないけど……」

「そうか。ずいぶんな旦那だったんだな」

「お箸を出すのを忘れただけで、まるで犯罪者でも見るような目で睨まれるの。機嫌が悪いと何日も口もきいてくれない。気に入らないと食事を作っても食べてもくれない。そんな毎日にもう慣れっこになってた。あぁまたかって……。あっ、ごめん。聞きたくないよね、こんな話。止めよう」

「優華、別れて良かったんだよ。もう忘れろ。俺は間違っても、そんなことはしないから」

「ごめん、悠介。食べよう。美味しいよ」

「そうだな」

「ハムエッグ、焦がさないで上手に焼けたね」

「だろう?」

 悠介の笑顔はやっぱり一番好き。

「ごちそうさま。美味しかった」

 後片付けは、やっぱり二人で。最後のお皿もしまって、おしまい。

「さてと、きょうは、ゆっくりDVDでも見るか?」

「いいけど、どんなの?」

「優華の好きそうなラブストーリーだよ」
 って言ったくせに……。

 これホラーでしょう? 怖いの駄目なんですけど……。私は画面を見ないように、ずっと悠介に抱きついてた。

 これって、もしかしたらオモウツボって言うんでしょうか?


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