二十年目の初恋
痛み 23
「あぁ、美味かった。生き返った」
 満足そうな顔。

「大袈裟ね。今まで死んでたの?」
 皮肉ってやった。

「ん~でも、この前優華が作ってくれた、かき揚げの天ぷら蕎麦の方がずっと美味しかったよ」

「お世辞なんて言ってくれなくていいわよ」

「俺が、お世辞なんか言うと思うか?」

「仕事の時は言うでしょう?」

「それは仕事の内だから。優華だって言うだろう?」

「まあね」

「さぁ、そろそろ行くか?」
 悠介が椅子から立ち上がる。

「そうね。温泉が待ってるわね」


 車に乗り込んでシートベルトを着けていたら、悠介の唇が私の唇に、そっと触れた。

「ん? どうしたの?」

「何でもないよ。ちょっとキスしたかっただけ」
 って笑ってる。

「だって……。ここサービスエリアだよ。人が見てる……」

「誰も見てないよ。ていうか気にしてないよ」

 ちょっとだけムカついてたのも悠介のキスで帳消し。あぁ私は何て単純なんだろう……。


 車は高速に戻り気持ち良く走って行った。

「あと、どれくらいかかるの?」

「そうだな。高速降りて少しあるから、あと二時間半ってとこかな」

「悠介、疲れない? って運転は替われないけど」

「休憩しながら行くから、無理はしないから大丈夫だよ」


 その後にも休憩を取って早めの昼食も済ませて車は高速を降りた。

 ナビの言う通りに進んで行くと見える景色がどんどん変わって行く。走っている道も自然に囲まれて川が流れて近くにも山が見える。

 緑がいっぱいになって来て見ているだけで気分まで清々しい。風の匂いや空気の色までも違うような気がする。高度が上がって来ているのが耳で分かる。

「大丈夫か? 耳?」

「うん。大丈夫よ」

「もうすぐ着くから」

 そして建物が見えて来た。景色にとても良く似合う落ち着いた風情の旅館だった。悠介は車を駐車場に停めた。

「さあ、着いたよ。お疲れ」

「悠介の方こそ、お疲れさま」


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