ラブ&ロイド
「…整形…」
「ただの整形じゃダメだ。顔を変えただけだと、俺が零泉だってことはすぐにバレる。名前さえも、変える必要があった」

時計の針はすでに二つとも時計の右半分にあった。知らない間に、明日は今日になっていた。

「そんな折に…斎遠先生が、脳科学の研究をしていることを知った」

ここから先は、何となく想像できた。これ以上聞いていられない…そう思ってはいたものの、体はまだここにあった。

「研究所に行って、ダメ元で相談してみた。そうしたら、脳に入れられる知識の量を大幅に増やすための実験をしようとしていた所だって言われた。よくは分からなかったけど、その話には乗ってみた」
「…怖くなかったの? 実験って、失敗するかもしれないんだよ…?」
「失敗したら、それまでだ。別にどうでもよかったんだ。俺がどうなろうと」

いつの間にか、私の目からも涙が滴っていた。

「医師免許を持ってる六角さんが、整形も兼ねて俺の脳手術を行った。どうにか無事成功したよ。それから一ヶ月間は、この世界のありとあらゆる知識を限界まで詰め込んだ。…不思議なことに、頭がパンクしそうになんて全然ならなかった。…そして気がつけば、俺はアンドロイドのように、完璧な頭脳と完璧な体を持ち合わせていた」

思い出したように、零泉が続ける。

「確か…俺は五体目の試作機、って言ってたよな?」
「うん…お父さんは、そう言ってた」
「斎遠先生と六角さん以外は、俺のことをそう思ってる。俺は五嶋颯というアンドロイドとしてしばらくの間生活することを命じられた。誰にも正体がバレることがないように。それが条件だった」

零泉の目が、再び赤く腫れる。

「でも…俺はもう、アンドロイドでも人間でもなくなった…!」

硬く握られた零泉の拳には、大きな後悔が握られているように見えた。
< 43 / 50 >

この作品をシェア

pagetop