ラブ&ロイド
「何もかも完璧になってしまった俺は、もう人間じゃない…だからって、アンドロイドでもない…俺はもう、何者でもなくなった…」

そして、漏れ出るように言葉が声となった。

「…悔しい…!」

その悔しさは私もよく分かる、と言ってしまったら、それは嘘になる。だけど、少しは零泉の気持ちに寄りそうことができるかもしれない。そんな淡い期待は、どうにか持てた。

「…大丈夫」

私は、零泉を抱きしめていた。

「…三鷹…」
「私は…ちゃんと、零泉は人間だって思ってる。確かに普通の人とは違うよ。でも、普通の人なんてどこにもいないから。零泉は、いい個性を持ってると思う」
「…ありがとう」

クラスの皆の噂をうのみにしてしまっていたから、零泉は変わり者という固定観念が染みついてしまっていた。でも、そうじゃない。零泉は、いい人だ。

「…三鷹」
「どうしたの?」
「クラスの奴には…まだ内緒にしてもらえるか? あと、三鷹の家族にも…」
「…うん。分かった」

零泉のこれまでの苦労を思えば、口をつぐむことなんて簡単なことだった。

「じゃあ…おやすみ、零泉」
「ああ。おやすみ、三鷹」

改めてベッドに入り、電気を消す。充電なんてしていない零泉は、ちゃんと呼吸していた。ちゃんと、一人の人間として生きていた。
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