御曹司と愛され蜜月ライフ
反射的に頬が熱くなる。私はぶんぶんと頭を振って、その熱を逃がした。

……近衛 律。初めてまともに会話したけど、変なひと。

御曹司でお金は持ってるはずなのに、どうしてこんな安アパートに引っ越して来たんだろう。そのくせ、このことを誰にも言うなってどういうこと?

でもなんか、『恥ずかしいから』とか世間体を気にしてる風でもなかった。……実は、のっぴきならない複雑な事情があるとか?



「……ハッ、まさか誰かに命狙われてる?!!」



自分で口にしてみて、ナイナイとすぐに思考を打ち消す。さすがにドラマの観過ぎだわ。

何やら事情がありそうなウチの会社の御曹司。正直、もう関わりたくない。

けれどもかなしいかな、あの人は同じアパートの隣人だ。今後、嫌でも何かしら顔を合わせてしまうことがあるだろう。


……私は、平穏に暮らしたいだけなのに。変化のない退屈な日常を、愛しているのに。

自分の干物っぷりを自覚はしていても、この生活を続けていきたいのに……!


さびついた手すりに力なくもたれ、ため息とともに生気も逃げ出すよう。



「ああもう、二次元に行きたい……」



ずっと。もう2年間も続けていた日常をぶち壊す、“隣人がまさかの御曹司”という異常事態。

この先どう転ぶかはわからないけど。少なくともさっき自分の身に起きたことは、『平穏』とはほど遠いと思う。


……ああ、神様。

どうか私の平穏な干物ライフを、返してください……。
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