御曹司と愛され蜜月ライフ
「なんだ。デザインが気に食わなかったか?」

「そっ、そういう問題じゃなくてですね……!! こんな高そうなもの、いただけませんよ!!」

「じゃあ、デザインが問題というわけではないんだな?」



イマイチ噛み合っているのかわからない彼の問いかけに、グッと言葉が詰まる。

今私の手の中にある小箱で光を放つ、ピアス。

ローズゴールドのダブルハートから小さなパールがぶら下がっているそれは、正直言って、私の好みどストライクにかわいい。

……かわいい、けどさあ……!!


私の反応に、なんとなく察しがついたのだろう。「なんだ」と課長がひとつうなずく。



「気に入ったならよかった。会社でもつけられそうなデザインにしたからな」

「で、ですから、いただけませんって」

「しつこいな。素直に『ありがとう』と言えないのか? この口は」



言葉の途中で簡単にあごを捉えられ、上向かされた。

至近距離で端整な顔がこちらを見下ろす。少しカサついた彼の親指が私の下くちびるを撫でるから、とたんに頬が熱を持った。



「や……っわ、わかりました! あっ、ありがたく頂戴します!」



大きな手から逃れるようにあわてて顔を背け、ほとんどヤケクソでそう返す。

これ以上の問答は不毛だと悟ったんだからしょうがない。ちらりと課長に視線を戻せばその目元は満足げに細められていて、どうしようもなく悔しくなった。



「ふっ。最初から素直にそう言え」



笑いまじりにつぶやいたかと思えばくしゃりと頭を撫でられ、突然のことに硬直する。

そんな私の様子に気付いているのかいないのか、課長はあっさり私の頭から手を離しそのまま車を降りてしまった。


ぽかん、と固まる私の視線の先で、今日買い物した荷物を手に『早く降りろ』と言わんばかりの眼差しをフロントガラス越しに向ける近衛課長。

その口元が、笑いを堪えるようにわざとらしく結ばれていることに気付いたから。私は照れやら怒りやらでさらに顔を熱くしながら、若干乱暴に車を降りたのだった。
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