御曹司と愛され蜜月ライフ
「……よし」
マスカラを塗ったばかりのまつ毛を何度かしばたかせ、私はポーチのチャックを閉めた。
鏡の中の自分と対峙して、おかしなところがないか確かめる。
女の社会で無難に生き抜くためには、目立ちすぎず、かといってダサくはならない、ほどよいセンスが大事だと思う。
最近よく使っているボルドー系のアイシャドウは今日も派手すぎないいい仕事をしてくれているし、アイラインもうまく引けた。
昨日早めに寝たからかなんだか肌ツヤもいいし、ひそかに練習しまくったサイドシニヨンのヘアアレンジだってキマってる。
家を出るまではあと5分。メイクを終えたこのタイミングで、私はネックレススタンドにかけてある中からシルバーのロングネックレスを手に取る。
それから、ピアスを仕舞っているアクセサリーケースの引き出しに手を伸ばしかけて──その手前に置いた、この野暮ったい部屋には不釣り合いに浮いて見える綺麗な白い箱に目を留めた。
「………」
たっぷり10秒ほど悩んだ末、小さなため息とともにその箱を手に取って。
中にあったピアスを手早く両耳につけた私は、ほどなくして出勤のためにアパートの一室を後にした。