御曹司と愛され蜜月ライフ
別に、恩着せがましく見せつけようとしたわけじゃない。

ほめてもらおうなんて、自惚れたわけでもない。

ただ、せっかく自分好みの、素敵なピアスをもらったから……それが、オフィスでつけていても、不自然じゃないデザインだったから。

だからまあ、さっそくつけてみても、いいんじゃないかなって。ただ、そう思っただけで。


だから別に、近衛課長が自分のプレゼントをつけた私を見てどういう反応するかなぁなんて……そんなこと、別に全然気にしたりなんかしてなくて。

会社で課長と顔を合わせたとき、最初になんて言えばいいかな、とか。そんなむず痒いことも、考えたりしてないし。


……うん、全然、してない、……けど。



「(今日1日、近衛課長と顔合わせないまま仕事を終えてしまった……)」



パタンと更衣室のロッカーを閉じながら、私は無意識に嘆息する。

なんだろう、このなんとも言えない拍子抜け感。そりゃまあ、もともと所属してる部署が違うし。今までだって課長と1日会社で会わないことなんてしょっしゅうあった。

でも、なんだか、今日は。



「………」



おもむろに自分の右耳に手をやる。そこには今朝身につけた──近衛課長からのプレゼントであるピアスが、たしかにあるわけで。

我ながら、なかなか似合っているんじゃないかと思う。それでたぶん、一応贈り主の反応も気になったとか、そんな感じ。

……そんな感じでしょ、卯月 撫子?


まあどうせ、きっと今夜も晩ごはんを持っていくことになるのだ。

別に会社で顔を会わなくたって、たぶん後で──……。



「お疲れさまでしたー」



まわりに挨拶をしながら更衣室を出たところで、ピロンとスマホが鳴る。

業務が終了した時点でマナーモードは解除済みだ。立ち止まってスマホを操作した私は、届いた新着メールの差出人と内容に一瞬固まる。



【今夜は遅くなりそうだから、夕飯を持って来てくれなくてもいい】



絵文字ひとつない淡々としたメール。差出人の名前は【近衛課長】になっている。

……ちがう、誰のせいでもない。課長は悪くないし、私がモヤモヤするのは間違ってるし、……ていうかモヤモヤってなにそれ! 意味わかんないでしょ!?

私は理不尽に出鼻をくじかれた気分で、とりあえず【了解です】と返信を打ったのだった。
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