強引でもいい、私を奪って。【SPシリーズ大西編】
「大丈夫だって。全然綺麗だよ」
そう言うと、すぐそばにひざをつき、私の手からクリーナーをそっと奪った。
気づけばその顔が目の前にあって、どきりとする。
「楽にして。疲れているんだから」
「え……」
「一昨日から、ずっと気になっていたんだ。キミが、どうしているのか」
とくん、と胸が跳ねる。
あの夜のことを思い出すと、顔から火が出そうだった。
「あ、あ、あのことは忘れてください……どうかしていたんです」
『連れて逃げて』なんて。映画じゃないんだから。
恋人ならともかく、初対面の女性にそんなことを言われて、大西さんもさぞかし困ったことだろう。
恥ずかしくて顔を背けようとしたら、細長い指にあごをとらえられてしまった。
「忘れられるわけないじゃないか。キミは、俺に助けを求めたんだ」
ずっと微笑みをたたえていた大西さんの目が、すっと細められる。
口角の上がっている口元は、きゅっと引き締まっていた。
「ねえ、どうして『連れて逃げて』なんて言ったの?」
その透き通った瞳に見つめられると、余計に胸が苦しくなった。