強引でもいい、私を奪って。【SPシリーズ大西編】
泣きそうになる。全てをぶちまけてしまいたくなる。でもできない。まだ彼とは出会ったばかりだから。
「……ごめんなさい。忘れてください……」
もう、婚約は成立してしまったんだ。
今さら破棄してしまえば、お父さんに迷惑がかかる。
派閥は分裂し、篤志さんからは慰謝料請求なんてこともあるかもしれない。
半年後の挙式を予約してある式場のキャンセル、新居を建てるためにおさえてある土地の手付金、婚約指輪やパーティーの費用。
その他諸々、この結婚にかかるお金は、すでに私に賠償できる額をはるかに超えてしまっている。
私がここでわがままを突き通せば、どれだけの人に迷惑をかけるかわからない……。
「そっ、か。言いたくないならいいよ。無理に言わせる権利は、俺にはないから」
大西さんはあきらめたように、私のあごから手を離した。
「ごめんなさい。心配してくれたのに」
「ううん。でも、話があったらいつでも聞くから。しばらくそばにいることだし」
ね、と大西さんは笑った。
その途端、どちらのものともわからないお腹の虫が、ぎゅううと鳴った。