隣の彼は契約者

01*5



 それからは大変。
 何しろ隣の席なもんだから、もし画面を見られていたら……と、考えるだけで気が気ではない。やっぱり他の題材にすべきだったと後悔しても後の祭りで、午後は胃がキリキリしていた。

 もっとも気にしているのは私だけなのか、特に声をかけられることもなく、先輩は終業前に自身のパソコンを消す。そのまま椅子に背を預けると大きな息を吐き、眼鏡を外した。


(ふおおおおぉぉぉ~~~~!)


 貴重なシーン遭遇に内心悲鳴と共に合掌した。
 ついでに小説ネタにしようと脳内メモを取っていると目が合う。


「大野……本当に終わるのか?」
「え? あ、あははは!」


 眉を顰めた彼の目はマウスの跡がついた書類に向けられる。
 先輩から受け取ったと考えただけで恐ろしくなった、なんて言い訳が通用するはずはない。しゅんと肩を落とした私は身体を彼に向けると頭を下げた。


「申し訳ありません……今日中は無理そうです。課長に言って今夜まで延ばせるか聞いてみます」


 ド新人ではあるまいに、私情で終わらせることができないなんて最低だ。
 先輩もそれなりに信用して預けてくれたかもしれないのに、評価を落とすようなことをしてしまった私は頭を上げることもできない。
 周りが背伸びするような声を出す中、ここだけ静寂に包まれているような錯覚に陥る。

 晴らすように、大きな溜め息と立ち上がる音がした。



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