隣の彼は契約者

09*3



 が、目が点なる。
 何しろ喋っているのは先輩だけで、笹森さんは頷いたり両手を使ってジェスチャーしているだけだった。


「は? ああ……それは笹森らしいな」
「……」


 一言も喋らないのもすごいが、身振り手振りの笹森さんと会話(?)している先輩もすごい。端から見れば宇宙人との交信だが、親友効果だろうか。美鶴ちゃんも感嘆の声を上げた。


「相沢さんすごい……私でも少ししかわからないのに」
「えー、少しでもすごいよ」
「いいな……」


 普段の彼女からは想像できないほど小さく、か細い声に目を丸くする。
 見れば口元には笑みがあり、若干頬も赤い。何より優しい眼差しにつられ辿ると、視線の先にいるのは相沢先輩。否、羨んでいるようにも聞こえたから、隣。笹森さんを見ている。
 ジェスチャーする彼を見つめる美鶴ちゃんにしばらく考え込んだ私はポンと両手を叩いた。


「美鶴ちゃん……笹森さんが好きなの?」
「なっ!?  は、バッ!」


 不意打ちだったのか、見たことないほど顔を真っ赤にした美鶴ちゃんは慌てふためく。そこに男性二人の視線も集まり、口が金魚のようにパクパクになると腕時計に目を落とした。


「あ、ああー課長、そろそろ行かないと!」


 棒読みにも聞こえたが、自身の腕時計を確認した笹森さんも頷く。次いで相沢先輩に向かって小さく手を挙げた。さよならの挨拶だろうかと見ていると、くびれ辺りを摘ままれた。


「ひゃっ!」


 突然のことに身体が跳ね、振り向く。が、見上げた先には黒い笑顔を向ける親友。



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