きみが望めば
砂に埋もれたまま、顔だけで振り向いた。

数人の兵士と薔薇の模様入りの旗。
「、ぁ、、!」
月光を浴び、ひと際輝いて見えたのはアル王子だった。見慣れた王子の愛馬が嘶きをあげた。

立たなきゃ。


とっさにあたしの足はラファのいる方向とは違う方向へ向かっていた。
彼は怪我をしているから、今は見つかっちゃいけない、そう思った。

背後に、砂をかき分け、駆けてくる足音。
アル王子がマントを揺らし近づいて来ていた。
「リノッ!」
ぐっと抱きしめられた。

引っ張られ、痛めていた足首に激痛が走った。
「ぁ!、、っ、」
「どうしたの?、、怪我をしているの?」

「足を、、痛っ」
「どこ?見せて。」
兵士たちもこちらへ来ていた。誰もラファのいる岩の方へは行っていないみたい。

アル王子の指が足首に触れる。
鈍い感覚しか来ない。
「ひどく腫れてる。すぐ侍医に診させよう。」
ひょいっと持ち上げられる。
「きゃっ!」

「城へ帰ろう。怪我までして。。」
アル王子の視線が夜の空気みたいに冷たく感じた。

ラファのそばに行きたい。。
ラファのそばに行きたい。

でもこの足で怪我をしてるラファのそばにいけば、、

今は行けない。
足の傷が治ったら、また逃げ出せるはず。。

アル王子の抱きしめる腕がぎゅっと強くなった気がした。

あたしの全部がこの腕じゃないと言ってるような気がした。


< 165 / 175 >

この作品をシェア

pagetop