◇君に奇跡を世界に雨を◇
「前に病室が一緒だった人でね、自分のことを奇跡の男だって言う人がいたんだ」
窓の外を眺めながら、ユウは懐かしそうに言った。
「奇跡の男?」
それはまた、怪しすぎる。
「すごく面白い人だったんだよ。38万分の1の奇跡を引き当てた、自称奇跡の男」
38万分の1。
その具体的な数字が、奇跡の確率としてふさわしいのかどうか私にはよくわからない。
眉をひそめたまま黙っている私に、ユウは話を続けた。
「その人がある日酔っ払って早朝の川辺を歩いていたら、風に飛ばされた一枚の紙が、ひらりひらりって目の前を横切ったんだって。ねぇ、あかりちゃんならどうする?」
どうするって言われたって……、
「そんなの。あぁ、なんか飛んで行ったなぁって思うだけだよ」
私の答えにユウは、
「ぼくもそうだと思う」
と真剣な顔で頷いた。
「でもね、自称奇跡の男はその紙がなんだかやたら気になって、風に飛ばされる一枚の紙を必死で追いかけたんだって。そして追いついてやっと手にしたらそれは宝くじで、その時『あぁ、この宝くじは絶対当たってる。1等2億円だ』って確信したんだって」
ユウはまるで神のお告げを聞いた聖職者の話を語るかのように、やたら厳粛な口調で真面目な顔で、突拍子もない話を続ける。