◇君に奇跡を世界に雨を◇
「本当だ。大きな海みたいだね」
「こうやって見ると、校舎がまるで船みたいに見えない?」
ユウは雨に打たれる大きな白い校舎を指して無邪気に笑った。
確かに。
大きく白い校舎は、一面水浸しのグラウンドの海に浮かぶ巨大な船みたいだ。
「雨の日はいつもここからあの校舎を眺めて、もし雨が止まなかったら、なんて想像をしてたんだ」
「どんな想像?」
私がたずねると、ユウは恥ずかしそうに、でも少し嬉しそうに話し出す。
「あのね、もしこの雨が止まなかったら世界は水に沈むんだ。そしたら、ぼくはあの校舎の船に乗って雨に沈んだ世界を旅する。どこまでも、自由に」
「なんか、ノアの方舟みたいだね」
私の相槌にユウは、あはは、と声を上げて笑った。
「ノアの方舟は、神様に従順で無垢な人間しか乗れないんだよ」
「そうなんだ。じゃあ私は乗れないかも」
「きっと、ぼくも乗れないね」
そんな話をしている間にも雨は絶え間なく降り続け、グラウンドの水溜まりはどんどん深くなっていく。
世界が雨に沈んでいく。