◇君に奇跡を世界に雨を◇
「……ユウ?」
ひと気のない廊下に響く、私の震えた声。
「あぁ、あかりちゃん」
その声に振り向いて微笑んだユウは、真夜中に見る姿よりずっと儚く、今にも消えてしまいそうに見えた。
「……ユウ、まだ夜じゃないのに、会えたね」
戸惑いながらそう声をかけると、
「今日はあんまり薄暗いから、夜と勘違いして出てきちゃったみたい」
いつものようにおどけた笑顔。
その笑顔がなぜだか切なくて泣きたくなった。
「あかりちゃん、見て。すごい雨だね」
うつむく私を元気づけるように、ユウはいつもより明るい声で私の名前を呼ぶ。
「ほら、見て?」
きゅ、っと目尻をぬぐい笑顔を作ってユウの隣に並んだ。
「雨のグラウンドって、海みたいじゃない?」
ユウの指差す先には、激しい雨に打たれ続け一面水に覆われた水捌けの悪いグラウンド。
雨粒がぶつかる度に、風に吹かれる度に、波打つ水面はまるで荒れた海のようだった。