もしも沖田総司になったら…

引越し大騒動

 斎藤さん曰く、他の隊士たちは次の日には移動を開始し、各々の荷物を西本願寺に運び入れるらしい。引越し作業でとにかく必要となるのは男手になるから男性の集まりである新選組の引越し作業というものには少なからず興味がわいた。
 指示さえしっかりと行き届いていけば引越し作業はスムーズに進み、余裕が生まれれば埃っぽい西本願寺の掃除もすることが出来るかもしれない。大勢の引越し作業もそんな悪くないのかも…と思っていた考えは翌日の賑わいによって即覆されるものとなってしまった。
 まだ、日が明けきらない早朝のことだ。
 何やら外が騒がしい。賑やか、とは表現することが出来ないほどに人の声が多過ぎるのだ。確か本日は屯所の隊員総出で西本願寺に移動をしてくるはずだが、新選組の人たちは常識というものを持ち合わせていないのだろうか?こんな早朝から街中を移動していれば嫌でも町民から目立つことになるし、騒ぎながらの移動ともなれば大迷惑になるだろう。最低限の会話だけで作業を進めてくれれば良いのに、無駄に会話が多過ぎる。そして、大人数の中に混じってサボり始める人の姿もあったことだから再び寝入ることも出来ずにそっと襖から顔を出せば軒先からどんな引越しをおこなっているのかと遠くから伺ってみることにした。
 案の定、作業とは無関係な動きをしている隊員たちの姿を発見した。会話をしてみたり、刀を見せ合っては何かを話し合っている小さな人の集まり。そしてとても木刀を持ち出してはとても稽古とは言い難い試合紛いなことを始めている集団を見つけた。土方さんたち真面目な幹部の方たちは一体何をしているんでしょうか?こういうときにこそ厳しい喝を入れなければならないだろう。
 上着代わりの羽織を肩から掛けながら軒先に腰を下ろして引越し作業から外れた一集団を眺めていると暫くしてから斎藤さんがサボり集団に一言二言声を掛けることによって無駄話をしていた隊員は作業に戻って行ったし、木刀を使った試合紛いを行っていた隊員たちは斎藤さんと特に会話を交わすことなく無言の圧力というヤツでも効果を発したのか静かに木刀を片付けて作業に戻って行った。
 以前、屯所に帰る道の途中、どこぞの武士に襲われかけたことがあったがそのときには斎藤さんの刀の強さというものでその場を収めることが出来たが、例え刀を持たなくとも斎藤一という一人の人間の強さというものを目にした気がする。
 朝餉…朝食を済ますと暫くの間は静かだった西本願寺だが、再び賑やかな声がお寺中に響くことになった。部屋の中にいてもとても騒がしい声が聞こえてくるものだからきっと本堂のほうは耳を塞ぎたくなるほどの騒動になっていることだろう。こういった作業を真面目にこなしていきそうな土方さんや斎藤さんたちはきっと呆れたり、喝を入れたりしているのかもしれない。
 「…もっと静かにやれないのかな~…」
 「全くだ。お前も、そう思うか?」
 そうそうこんなふうに不機嫌混じりの呆れた声で隊員に注意を促していくのかもしれない…が、ふと我に返ると違和感を抱いた。
 「ひ、土方さん?!」
 「おう。食事は済ませたようだな。…朝っぱらから騒がしい連中で悪いな、迷惑だったろ?」
 「い、いえ…同じ新選組のことですから…」
 「とか何とか言いやがって実はもっと静かにやれ~と思ってんじゃねぇのか~?」
 少しばかりニヤけて笑う顔がちょっとムカつきます、土方さん。そして、髪をぐしゃぐしゃに乱すように頭を撫でるのを止めてください。
 この時代に来て最初に土方さんを見たときには特に不思議には感じなかったものの時代劇などで武士が髷を結っているのは平隊士ばかりだった。土方さんや斎藤さんは背中にも届いてしまうような髪をただ紐で結っているだけだ。沖田の髪も肩に付くか付かないかぐらいかの長さがあって結うための髪紐があったから外出の際などには髪を結って身支度をしている。しかし、部屋に訪問者があるとは思っていなかったために今の私は寝るときに身につけている着流しに上着代わりの羽織を肩に掛けているだけだ。普段着の袴のような姿をしている土方さんと自分の格好とを見比べてみると少々気恥ずかしくなって顔を伏せてしまう。
 私だって女の子なんだし、普通の着流しだけでは胸元が寂しいのだ。
 「ったく、起きたばっかってわけでもなさそうなのに身支度一つ整えてねぇじゃねぇか。…襖もきちんと閉めておけよ?開いてたぞ?」
 「え?あー…すいませんでしたー…」
 襖を開けっ放しで過ごすほど人間が出来ているわけでもないからきっと食事の後片付けの際にきちんと閉めきることなく過ごしてしまったかもしれない。
 「静かに過ごせとは言ったものの一日中ずっとその格好のままで過ごすつもりか?無理にとは言わねぇが、気晴らしに隊員たちの稽古を見学するぐらいなら大丈夫だろ?」
 きっと本日、夜遅くまでは引越し作業で慌ただしく隊員たちは過ごすだろうから稽古どころではないのかもしれないが、また明日からは新選組の日常とやらが始まるだろう。それでも気軽に私なんかが見学に行っても良いのだろうか?
 「きちんと身嗜みを整えていけば隊員たちには女だってことはバレねぇだろ。総司も中性的な顔立ちをしていたしな」
 刀の扱いが優れていることは何となく知っていたものの中性的な顔立ちをしているとなると…沖田は所謂美少年系タイプに区別されてしまうのだろうか?
 「ま、まぁ…気が向いたら顔を出してみますよ」
 「……病人だからって寝て過ごすのが一番ってわけでもねぇからな。外の空気を吸って、他人と言葉を交わして…自分がしっかりと生きてるって実感するのも悪くねぇだろ」
 「そう、ですね…」
 一番良いのは私が現代に戻り、本来の沖田がこの時代にこの身体に戻って来てくれるのが有り難いのだけれど…そこは突っ込まないようにした。
 土方さんの言うことにもなるほど、と納得してしまったからだ。自分が生きている実感をする…それは、もしかしたらとても大切なことなのかもしれない。例えば土方さんが新選組の副長として、新選組という組織をこの世の中に広めていくことを一つの生きがいとしていることと同じように私もただ部屋で静かに過ごすばかりではなく、もっとこの時代に溶け込んでいく努力をしなければいけないと思った。
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