もしも沖田総司になったら…
戻る時間~沖田総司~
 「…総司、総司…!」
 うるさい。
 ボクは死んだんだからそう何度も呼ばなくてももう目を覚ましたりしないよ。…と言うか今の声って土方さんの声によく似ていたっぽいけど、まさか土方さんも早死しちゃったとか?はは、間抜けな話しになって後世に語り継がれていかなければ良いけど…なんてね。
 「…え?」
 目を覚ました先にいたのは閻魔様じゃ無かった。ある意味、閻魔大王よりも恐ろしい鬼の副長である土方さんの顔だった。
 「…ったく。やっと目覚ましやがったか。心配掛けさせやがって…」
 どういうこと?
 確かに鬼の副長は怖いけど、地獄の門番なんてさせて欲しいなんて願ったつもりは無かったんだけどな…。…意識もはっきりしてるし、身体も…あ。身体もあちこち痛いけど確かにある。これって一体どういうことなわけ…?
 「…あの、土方さん…今って、いつですか…?」
 「あ?池田屋に討ち入りに行ってから二日だ。ったく…寝込み過ぎて頭でもヤられちまったか?」
 「池田屋…」
 そうだ。
 ボクたち新選組は池田屋に討ち入りに行って、それでボクは途中で意識を途切れさせてから平成と呼ばれる時代で暫くの間過ごしていたはずなんだけど…。え、もしかして戻ってきちゃったってこと?でも、あの子は労咳でボクの身体は死んだらしいってことを言っていた。もしかして悪い夢を長く見ていたのだろうか…?
 「おい。総司、本当に頭でも打ったのか?」
 どうやら静かにしているボクを本当に心配して声を掛けてくれたらしいが、土方さんが心配してくれるその声、怒ると眉間の皺が特に浮かび上がるその顔がとても久し振りに見えるものでついつい眺めて楽しんでしまった。
 「あ、いた…っ!」
 「てめぇがボケッとしてるからだろうが!」
 「…いたた…ボク、一応怪我人なんですよ?!…あれ?そういえばボクの刀は…?」
 「…それがな…池田屋の一件から見つかってねぇんだ。代わりに幕府からコイツをお前に、と預かってる」
 「…刀、ですよね?」
 布団から身体を起き上がらせてみるとひと振りの刀を土方さんから受け取るとするりと不思議と手に馴染む鞘から刀身を抜いてみると美しいと言わんばかりの刀身が出て来た。これは相当斬れる刀だろう。
 「…コレをボクに、ですか?」
 「池田屋の一件での報酬みたいなモンだとよ」
 「…イイ刀ですね…」
 今まで愛用していた刀の行方が知れないのは不安だったが、この刀があれば充分だ。ボクはまだ…いや、また闘うことが出来る。
 そう言えばあの子はボクの刀を実家に預けたとか何とか言ってたっけ…。時間が空いたら久し振りに姉さんの顔でも見に行ってみようか。
 「…コレ、加州清光ですね…はは!一くん辺りが見たら羨ましがるかも」
 池田屋の報酬は他にもあるかもしれないけれど、ボクに与えられた報酬が刀一本だけじゃ物足りない気持ちになったがよくよく見てみればなかなかの刀だ。刀好き…ある意味刀マニアの一くんは一度で良いから手にしてみたいと言ってくるかもしれない。でも、絶対に貸してあげないよ。
 コレはボクの刀なんだから。
 …そう言えばさっきから頭には思い浮かぶのにあの子の名前が思い出せない。確かに世話になった…というか、身体を借りていたから世話になっていたのは身体だけなんだけどそれでも良い体験をさせてもらった。
 名前は何と言ったっけ?
 …ま、良いっか。
 それからボクは今まで新選組の誰にも話すことが出来なかったことを告げてみた。それはボクの身体のこと。もしかしたら労咳を患っているかもしれないということを打ち明けてみたのだ。
 土方さんは目を丸くし、受け入れることが出来なかったかもしれないけれどボクは少しでもこの新選組で戦い続けるために今からでも出来るだけの治療を始めてみようと思ったから。
 労咳を恐れたのではない。
 まともに戦えないまま、土方さんに見守られながら死ぬっていうのが嫌だったから。あの子が話していた内容が例え夢だとしてもボクは身内に死に顔を見られるのは絶対に嫌だった。出来れば戦の中で、悔いを残すことなく死んでいきたい。
 ボクの、沖田総司の生涯はまだまだ続いていく。否、過酷な病と闘うことになるとしてもボクはボクなりに生きてみようと思った。
 …はぁ~…早くもマズイ薬を服用していかないといけないことになるのは癪だけど、悔いの無い生き方が出来るのならば少しぐらい薬は我慢…してみようと思う。
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