恋は天使の寝息のあとに
恭弥は正座を崩すと、のろのろとした仕草で後ろにあった障子を開けた。
障子の奥にはガラス窓があり、外には上品な日本庭園が広がっている。

「今さら、兄と思えなんて言われても、あんたも困るだろ」

そう言って窓を開けると、胸ポケットの煙草に手を伸ばし、安っぽいライターで火を点けた。

「どうせ俺は一人暮らしだし、たいして顔を合わせることもない。
お互い、マイペースに生きていこうぜ」

窓の外に向かって煙を吐き出す彼。
庭園の木々がぼんやりと白くくぐもって、やがてそれは風に吹かれて霧散した。


握手をしようと差し出した手をはたき返されてしまったような気分。出だしからいきなり拒絶されて、これ以上踏み込む気力も失せてしまった。

それならそれでいいか、と思った。彼の言うとおり、一緒に暮らすわけでもないし、仲を深める必要もない。
私との関係を拒むのならば、仕方ない。

とりあえず彼が面倒くさがりやだということはわかったから、なるべく触らず、刺激せず、ほどほどの距離感を保って接していこうと思った。


***
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