恋は天使の寝息のあとに
私はもう、くたくたに疲れきっていた。

生後間もない心菜の眠りは短い。
二時間眠り続けるのがやっと。早ければ三十分で目を覚ましてしまう。

そんな細切れな睡眠に付き合う私は、酷い寝不足だった。
彼女が寝入り、やっと私も眠れたかと思えば、またすぐに起こされる。
途切れ途切れの睡眠では疲れなんて全く癒えやしない。
常に意識は朦朧としていて、地面がゆらゆらと揺れているような気がする。三半規管がやられているのだろう。

さらにたちの悪いことに、心菜は、常に私が抱きかかえていないと、寝てくれないのだ。
腕の中から下ろして、布団に背中がついた瞬間、ぱっちりと目を覚まし、けたたましい泣き声をあげる。

おぎゃー! おぎゃーー!! (もっと抱っこして! ずっと抱っこして! 眠いよー眠いよー抱っこして!) と。
まるで背中にセンサーでもついているのではないかと思うくらい、彼女は私の腕が離れた瞬間を敏感に察知する。

だから私は眠りについた心菜が本当に熟睡するまでの間――十五分か、三十分か、あるいは一時間か――ひたすら抱っこを続けて耐えなければならなかった。
一度の寝かしつけに一時間はかかるのに、途中で布団へ下ろし損ねて泣かれようものなら、今までの苦労が水の泡。またゼロからやり直し。

かといって、何時間も心菜を抱きかかえたまま立ち続けるのでは体力がもたない。
腕も彼女の重さでじんじんと痛みだしてくる。きっと腱鞘炎だろう。

そんな私が行き着いた打開策は、心菜を抱きかかえたままソファに座り、彼女が目を覚まさないようにじっとしていること。
身動きがとれず何もできなくなってしまうが、途中で泣き出されてしまうよりはずっとましだった。

彼女が眠る間、私はソファに身を預けて目を閉じる。
疲れきった身体が少しでも休まるように。
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