As sweet honey. ー蜂蜜のように甘いー
くすんだ林檎





5月10日、いよいよこの日が来てしまった。




AM11時、大川に架かる橋の中央で周防さんが待っているとのこと。



もっと、凄いところに呼ばれるのかと思ったけど、まるで普通のデートの待ち合わせみたいだ。



わくわくもそわそわもしないけど。



「僕、不安なんだけど」




その日、何故か目の前には悠太もいた。




同行する訳では無く、見送りだ。




「大丈夫だよ」




「千代、そろそろ行くぞ」




「じゃあ、行ってくるね」



家の前に止められた車にパパとママと乗ると、悠太の見送りのもと、周防さんの待つ場所へと向かう。



パパが先に乗り、私が次、最後にママが乗る。



ママは、何か悠太と話してから乗ってきた。




向かいにはパパ、隣にはママが座る。



「ママ、悠太と何話してたの?」



こっそりママに聞いた。



「んー、ひ、み、つ」




教えてはくれない。



少し気になるけど、今は周防に会って何を話すべきかと悩む方が優先だ。





車が走ること30分、目的地前に着いた。




車から降りると、3人で橋の中央へと歩く。





「周防くん!」



パパがそう呼ぶと、川を眺める男性が振り向いた。



その顔を見て一言。



綺麗だ。



ブロンドヘアーに、青みがかった瞳、綺麗な鼻筋……まるで海外の人だ。



「あぁ、お久しぶりです、日比谷社長。そして紗代里さん」



「今日は頼むよ」



「娘をよろしくお願いしますね」




「ええ、それは勿論」



「日比谷千代です。今日はよろしくお願いします」




「こちらこそ」




「では、私達はこれでは失礼しましょうか」



「そうだな、二人の時間を邪魔してはいけないからな」



2人が車に乗るのを確認すると、周防さんが声をかけてくれた。



「そろそろ行きましょうか」



そう言って、私が来た反対方向へと歩いて行く。



どこへ行くんだろう。



「あの、どこへ行くんですか?」




「それは着いてからのお楽しみです」




「……周防さんのご両親は海外の方なんですか?」




「父がイギリス人で、母が日本人です。10歳に、父が会社を立ちあげるために日本へ来たんです」



イギリス人と日本人との間に生まれた、ハーフ。



その美しさは外国人独特だ。



「………」



ええと、何を話そう。



「………千代さんは何色がお好きですか?」



色……色……


何色が好きなんだろう。


可愛いピンクやオレンジが好き、綺麗な青や紫や緑も好き、何にでも染まる白も好き、何にも染まらない黒も好き。




「私は、何色でも好きです」



少し悩んだ挙句、そう答えた。



すると、周防さんはふっと笑った。


「千代ちゃんは何にでも染まれそうだね。君を私色に染めてあげたいくらいだ」



告白じみたその言葉に、ドキリとする。



「周防さんは何色ですか」



「僕は……もう随分と何色にも染まってしまったよ。世の中の混ざり過ぎて淀んでしまいそうなところかな。強いていうならば、色が混ざりあって出来た紫かな」



それはまるで、世の中の暗い部分を見てきたかのようだ。



多分、そうなんだけど。



大人になれば、そういうものなんだよね、きっと。



「さ、着いたよ」




着いた場所は、『アクアリゾート』と書かれた建物の水族館。




「ここですか?」




「千代さんは水族館がお嫌いで?なら、別の場所に……」




「いえ!もっと凄いところに連れていかれるのかと思っていたので驚いただけで、全然嫌じゃないです!」



「ふふっ、私をなんだと思っているんですか?私、こういうところに来るのが楽しみなんですよ。小さい頃はあまり来たことがなかったので」



私も、小さい頃に悠太と悠太の家族と何回か来たくらいだ。




「じゃあ、目一杯楽しみましょう!」




「はい、そうですね」



微笑む周防さん。




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