As sweet honey. ー蜂蜜のように甘いー
コンサートが終わると、スタッフさんが止めるのを突っ切って、真っ先に控室に飛び込んだ。
「伊津希おにいちゃん!」
椅子に座ってコップに入った飲み物を飲んでいる伊津希お兄ちゃんがこちらを向いた。
そして、唖然とした。
そりゃそうだよね
「えぇ!?……千代?それに、悠太も!」
驚いて、飲み物を吹き出しそうになっていた。
「伊津希お兄ちゃん、どうして連絡くれなかったの?」
そんな伊津希お兄ちゃんに、詰め寄るように言った。
「ごめん。もう俺の事なんて忘れちゃったかなって思って」
伊津希お兄ちゃんは、私たちの7つ上で、私の「はとこ」だ。
バイオリンは昔からやっていて、高校を卒業する前にドイツに留学し、しばらくして有名になった。
まだ23歳という若さで、世界的に有名なバイオリニストなんて、誰もが驚きだ。
私たちが小さい頃は、よく遊んでくれていた。
優しくて、面倒見が良くて、私たちを可愛がってくれていた。
そんな伊津希お兄ちゃんは、私にとって憧れだった。
伊津希お兄ちゃんは忙しくて、ドイツに行ってからは、会うどころか、全然連絡も取らず、疎遠になってしまっていた。
なのに、そんな伊津希お兄ちゃんが、今目の前に居る。
「私が伊津希お兄ちゃんを忘れるわけないよ!」
「……そっか。嬉しいな」
伊津希お兄ちゃんは、随分と大人らしくなっていて、かっこいい。
少しドキッとしてしまいそうだ。
「伊津希にぃ、さっきの演奏凄かったよ」
「ありがとう、悠太。悠太も随分と大きくなったね。俺よりも背が高くなったんじゃないか?」
悠太と伊津希お兄ちゃんが並んだ姿を見ると、確かに悠太の方が少しだけ大きい。
「へへ」
「悠太、芸能界にいるんだろう?」
「えっ、なんで知ってるの!?」
「ドイツでも日本のことは知れるよ。よくパソコンでチェックしているんだ」
「な、なんか恥ずかしいな」
「あの弱虫な悠太がねえ……まぁ、薄々この道に進むことは分かっていたけどね。悠太には輝きがあるから。お兄ちゃんとしては悠太が男らしくなってて嬉しいぞ~」
「うわっ、髪ぐしゃぐしゃにしないでよー!せっかく千代に直してもらったのに……」
「悪い悪い。って、悠太のその気持ちは相変わらずなんだな。その様子じゃ、進展なしか」
「う、うるさいっ」
「ねえ、伊津希お兄ちゃん、しばらくこっちに居るんだよね?」
留学中の話が聞きたいな……
「ごめんな、千代。明日にはドイツに戻らなくちゃいけないんだ」
「え」
嘘、あと少ししか日本にはいないの?
ショックだった。
「連絡しなかったもう一つの理由だ。直ぐに帰ることになるし、逆に会わない方が良いかと思ったんだ。でも……裕一郎さんに一枚持って行かれたよ。まさか二人を僕達のコンサートに来させるなんてね」
「……」
返す言葉が見つからなくて、下を俯いた。
「大丈夫だよ、また会えるよ」
「そうさ、また日本で演奏する機会は必ず来る。そのときは出来るだけ長い時間滞在できるようにする。そうしたら、ゆっくり話をしよう」
「……うん」
「まあ、これで別れるのは何だし、このあと食事でも行くか」
「伊津希にぃ、いいの?このあと打ち上げとかは?」
「ああ、俺達はそういうの無いんだ。たまに誘われることはあるけど、全体でってことはないかな。コンサートが終わってもそれぞれ予定があるからね」
「そうなんだ」
「じゃあ、関係者専用の裏口の方で待っていてくれないか」
「了解」
悠太に背中を押されて、控室を出た。