あなたにキスの花束を


そしてもちろん、世の中そんなに甘くない事は、すぐに解る。


王子はコートのポケットをごそごそ探って何かを取り出すと、それを私に差し出しながら、再び優しく笑い掛けてくれた。



「はい、これテーブルに忘れてた。それと、…コート、放してもらっていい?」



渡されたのは私がさっきの飲み会で使ってたハンカチ。

そして私はさっきから、彼のコートの端を掴んだままだった。



「すすすすみません…!」



慌ててぱっと放す。恥ずかしい…!

要するに彼は、合コンを抜けついでに、いや、もしかしたら抜ける口実の為に、私に忘れ物を届けに来てくれただけなんだ。

ですよねーこんな王子がほいほい一本釣り出来る訳ないですよねー。

私に興味が有るなんて紛らわしい言い方しおって。

無駄に有頂天にされた分、しおしおと項垂れて俯いてしまう。
大漁旗も法螺貝も胸の奥底にそっと仕舞いながら。後で叩き壊そう。

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