そこには、君が






警察署を後にし、


夜道を三人で歩く。


前を歩いている大和も京也も、


何も話さない。


私に出来ることは、


ただ心配するだけ。








「大和…怪我、痛む?」






そう聞いた私に、


何も答えようとしない大和。


続けて言葉をかけてみるが、


全部聞き流される。








「大和、聞いてんのかよ」






京也もそっとフォローしては


くれるものの、大和は


何も言おうとしない。








「ねぇってば、」







私はしびれを切らし、


大和の前に立ちはだかる。


両腕を掴み、動きを止める。


目を見て、思うことを紡ぐも、


何も言おうとしない。








「大和…、ねぇ、何か言っ、」







「退いてくんね?」








冷たく言ったその一言が、


思ったよりも痛かった。


私はただ。


…ただ、何だろう。










「大和、お前っ…」







「京也、いいから」









静かに退く私を見てか、


大和に突っかかろうとする


京也は、一声ですぐ静止。


そんな私たちを目にも止めず、


大和は一人歩き去っていく。








「ここでいいよ、京也」







「よくないから。ちゃんと送る」








私の家とは逆方向のくせに、


優しいが故に放っておけない性格。


二人で並び歩きながら、


きっとお互い大和のことを


考える。









「ちゃんと大和に、言っとくから」








「…別にいいよ」









今の大和は、


何を考えているか分からない。


何を言ってもきっと、


響かないし届かない。









「明香さ、」






「うん?」








聞きにくそうに、


京也の口が言葉を紡ぐ。









「本当に付き合ってるの?」







あの大学生と。


今まで触れてこなかった、


その事実に片足を入れる京也。









「うん。付き合ってる」







「そっか。幸せそうだもんな」








少し寂しそうな京也に、


不思議と母性らしき本能が


くすぐられる。


このパワーで何人もの女を、


落としているのか。








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