そこには、君が
ろくの

いち






夏休み目前、7月中旬。


3年生のこの時期だと、


大体の会話が進路のこと。







「いい就職先、ない〜、、」






求人票を見ながら嘆く凛。


凛は高校卒業後、就職をして、


お金を誰よりも早く稼ぎたいのだとか。


アパレル関係の仕事に就きたいという夢が


ずっとあるらしく、


毎日求人票と睨めっこ。







「アパレルって多そうなのにね」






「あるのはあるんだけど、条件が微妙なの…」






そんな凛を横目に、


私は大学のパンフレットを眺める。


いまだに通訳の仕事に興味がある私。


親とは特に話もしていないけど、


この先の進路に変更は無し。


無し、なんだけど。








「明香は通訳さんだもんね」






「うん、そこはぶれてないんだけどね、」






実は誰にも海外留学の話はしていない。


凛にも、大和にも、京也にも。


そもそも出来るか分からないから、という


理由もあった。


だけど今となっては、


その事実が億劫だったりする。


だって。


そうなったらみんなと離れることになる。


大和のそばに居られない。








「早く決めなきゃだ〜」






「うん…そうだね、」







いつか言おうと。


いつ言おうと。


ずっと悩んでいるうちに、


もう今日になった。


進路決定するのが目前に迫っていた。







「もしもーし」







『久しぶりよね、元気にしてるの?』






「うん、元気だよ」







なんだかんだ電話するのが久々な母親の声。


向こうは今、朝の8時なんだとか。








「そういえば、あのさ」






まだ大和とのこと、伝えてなかった。


言いにくすぎて、言葉に詰まったが、


しどろもどろになりながらも、


何とか言葉にした。







「大和と、付き合ったんだ」






『え!大和!永森の?』





「うん、そう…」







あははは…、と恥ずかしさ紛らしに


笑ってみると、母親は電話の向こうで、


大爆笑していた。







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