そこには、君が





「ばかは寝たら悩み忘れんだろ」




「大和だけには言われたくない」





いつもこう。


私が学校で怒られたり、


友だちと喧嘩したり。


泣いて悲しむたびに、


こうして一緒に眠った。


こんなに狭い部屋なのに、


こだわりのキングサイズのふかふかベッド。





「明香」




「なに」




「目が覚めたら笑え」




もう大丈夫。


大和はそう私に囁いてくれる。


ふと思う時がある。


大和も京也も、


魔法使いなんじゃないかって。


口から出てくる言葉も、


ピンチを助けてくれる時も、


私を安心させてくれる温もりも。


髪を撫でる大和の優しさは、


きっといつか他の人を包むんだ。


絶対私は言ってやる。


大和に愛された貴女は、


世界で1番幸せになれるって。


そういえば大和の好きな人の話とか、


聞いたことないな。


起きたら聞いてみよう。


私はそんなことを考えながら、


無意識に意識を手放した。








「…ん、」




温かい布団の中。


大和の胸の中から寝返りを打つと。


思いがけず、また人の胸に


すっぽりと入った感覚がした。





「誰…もう、」




ふと顔を上げると、


そこにいたのは京也で。


また潜ってきたのか、この男。





「京也、邪魔…もう」





いつの間に来たのか、


ぐっすり眠っている京也を、


私はわざと起こしてみる。





「京也のあーほ。起きろっ」




私が頬をペチペチ叩くと、


まだ眠いんだと訴えんばかりの顔で、


私を見下ろしてくる。





「なーに、明香」





京也の甘い声が私の髪を揺らす。


くすぐったいけど、暑苦しい。


私に回してくる腕を掴んで、


向こうに放り投げた。





「京也どいて」




「何でそういうこと言うの」




「暑いんだってば」





キングサイズの利点。


大人数でも難無く寝られること。


キングサイズの欠点。


大和と京也が邪魔なこと。






「誰。京也?」




「あ、大和起きた」




「大和、俺たこ焼き食べたい」




「えー、私お鍋がいい」




「俺ラーメン」





3人が3人。


合わせることなく、


それぞれの意見を言い合って。


だけど結局、いつもいつも決まって。





「俺ラーメン嫌だ。今日は気分じゃない」




「ふざけろ。俺だってたこ焼きとかいらねーよ」




なんてお互いの意見を否定し合って。


最終的に落ち着く所は。





「明香、俺と一緒にお鍋の材料買いに行こ?」




「京也黙れ。明香、もうちょい寝てから行こうぜ」




私の出した、お鍋の意見。


やっぱりなんだかんだ優しい2人。


わざとなんじゃないのか、ってくらい、


私の意見に合わせてくれるんだ。





「京也も大和もうるさい。1人で行ってくる」




今日この日を2人と過ごして、


徹平さんのことを忘れようとした。


ベッドでの2人の温かさを感じ。


常に続いていくと勘違いしている私は、


何もなかったように2人を置いて部屋を出た。


後ろから追いかけてくる2人は、


これから大きくなってもずっと


傍にいると。


そう思ってたんだ。






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