そこには、君が






「今日、あの日?」




「うん、楽しみ」




帰り際に凛と話す日常会話。


徹平さんとさよならしてから、


1週間が経った。


私はあの日にあったことを、


凛には話していない。


だけど何も言わない私を、


きっと分かってるから。


だから何も聞いては来なかった。





「今日さ、春太さんにCD貸してもらうの」




「あーそうなんだ。何借りるの?」





春太さんの名前すら、


気を遣ってくれる凛に、


ひたすら申し訳なくなる。





「なんか好きな曲があるんだって。ジャズなのかな?」




「ジャズとか聴くんだね。意外と」




2人で笑う。


自分が笑っていることが、


久々だと感じた。


いつもどこか、上の空。


最後に振り返らなかった、


あの感覚を忘れられない。





「ま、借りるだけなんだけどね」




「遊ぶんじゃないんだ」




「向こうバイトらしいし」





帰りのHRが終わり、


帰る支度をして2人で玄関へ。


すると、なぜか外が騒がしかった。





「明香!」




「京也、どうしたの…」





騒がしい人だかりを目の前に、


後ろから息を切らして走ってきた


京也の声で私たちは足を止める。


何事かと目を見開くと。





「大和があん中にいる」





京也が指差す方は、


目の前の人だかり。





「はい?何で大和が…」





一瞬で頭によぎった、


悪い予感。






「ね、明香。今来てるんだって」





携帯を見ながら、


凛は驚きながら言った。






「来てるって、誰が?」





「春太さん、…と、」






そこから先を。


出来れば聞きたくなかった。






「徹平さん」






彼だということは、


分かっていた。


名前を聞いて、私は、


どうしたらいいのか分からず、


立ち尽くすしかなかった。






「何で…来て、…」





もう現れないって、


言ったじゃない。


そう言って私の手を、


離したのに。


その時。


聞こえた大和の怒鳴り声。








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